目次
①時代と舞台
現代の岐阜県大垣(おおがき)。横山ダムに沈んだ村・鬼姫生(きびゅう)の出身だった祖母が遺した住所録から、市内のアパートで一人暮らしをする直子(なおこ)が、祖母のそばにいたらしい一人の女性の跡をたどる物語です。
②歴史の手がかり
- 横山ダムと水没した村 岐阜県揖斐郡揖斐川町の揖斐川に、1964年に完成したダムです。建設に伴って上流の集落は湖の底に沈み、住民は故郷を離れて、下流の町などへ移り住みました。
- 移り住んだ人々の暮らし 故郷を失った人々は、移った先で仕事を替え、慣れない土地で暮らしを組み直しました。そうした人々やその家族の聞き取りは、地域の記録としても残されています。
- 手書きの住所録 手帳型の住所録には、転居のたびに古い住所を線で消し、新しい住所を書き足していくことが多くありました。そこには、持ち主の人づきあいと、相手が移り住んだ跡が、そのまま残ります。
- 昔話の語り 昔話は、語り手によって少しずつ形を変えて伝わります。同じ話でも、家ごと、人ごとに筋や結末が違うことは珍しくありません。
- 「鬼姫生」とのつながり 作中の祖母のふるさと「鬼姫生」は、本書に収めた「鬼姫生」と同じ、横山ダムに沈んだ村です。
③あらすじ
階段から落ちて入院した母の退院に備え、直子は休日ごとに市内のアパートから実家へ車で通う。
近くに住みながら、それまでは用事のあるときしか寄っていなかった家だった。
ダムに沈んだ村から移った人々の子や孫を訪ねる本に、一篇書くよう頼まれたばかりだった。
祖母の部屋の机の引き出しから、茶色の住所録が落ちる。
直子の欄では、結婚していたころの姓に一本線が引かれ、今のアパートの住所が書き添えられていた。
その次の見開きに、名字のない名前がある。
「ふさ」。
住所は三つ。
最後の一つは、いま直子が立っているこの家だった。

